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徳島地方裁判所 昭和62年(行ウ)6号 判決

徳島県三好郡三野町大字芝生一二四二番地一

原告

田中春夫

同県同郡池田町シンマチ一三四〇番地の一

被告

池田税務署長

穴吹晄宣

右指定代理人

堀嗣亜貴

星野英敏

佐藤公美

田川直之

萩原義照

山本孝男

岡田淳

高木傑

西野賢一

播磨憲

香川竹二郎

宮武輝夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五九年二月二一日付けでした原告の昭和五五年分所得税の更正(以下「本件更正1」という。)のうち総所得金額五五八一万一四四八円、税額九二二万七九〇〇円を超える部分、過少申告加算税賦課決定(以下「本件過少申告加算税賦課決定1」という。)のうち四六万一三〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定(以下「本件重加算税賦課決定1」という。)の全部(ただし、いずれも異議決定による一部取消し後のもの)をいずれも取り消す。

2  被告が昭和五九年二月二一日付けでした原告の昭和五六年分所得税の更正(以下「本件更正2」という。)のうち総所得金額四二八七万四二二八円、税額一四九九万六一〇〇円を超える部分、過少申告加算税賦課決定(以下「本件過少申告加算税賦課決定2」という。)のうち七四万九八〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定(以下「本件重加算税賦課決定2」という。)の全部(ただし、いずれも異議決定及び審査裁決による一部取消し後のもの)をいずれも取り消す。

3  被告が昭和五九年二月二一日付けでした原告の昭和五七年分所得税の更正(以下「本件更正3」という。)のうち総所得金額二七七六万六三一七円、税額五一六万二八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件過少申告加算税賦課決定3」という。)のうち二五万八一〇〇円を超える部分(ただし、いずれも異議決定及び審査裁決による一部取消し後のもの)をいずれも取り消す。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は病院を経営する医師であるが、原告の昭和五五年分から同五七年分までの各所得税についての確定申告、修正申告、更正及び賦課決定、異議決定並びに審査裁決の経緯は、別表1ないし3の各該当欄に記載のとおりである。

2  本件更正及び過少申告加算税賦課決定の各1ないし3のうち請求の趣旨1ないし3記載の各金額を超える部分並びに本件重加算税賦課決定1及び2は誤認した事実に基づいてされたものであるから、違法である。

よって、原告は被告に対し、本件更正及び過少申告加算税賦課決定の各1ないし3については請求の趣旨1ないし3記載の各金額を超える部分並びに本件重加算税賦課決定1及び2についてはその全部の各取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認める。

三  抗弁

1  原告の昭和五五年分の事業所得の金額、総所得金額、所得税額、過少申告加算税額及び重過算税額

(一) 事業所得の金額 一億二二八〇万八六五四円

原告の昭和五五年分の事業所得の金額は、修正申告による事業所得の金額四〇〇八万二六九八円に次の(1)ないし(5)の金額を加算した一億二二八〇万八六五四円である。

(1) 修繕費の否認額 三一八万八〇〇〇円

イ 原告は、修正申告による事業所得の金額の計算において、「古屋木造建築修繕費」として三野鉄骨株式会社に支払った二〇八万八〇〇〇円を必要経費に算入しているが、そのうちの四三万三五七〇円は右建物の取得価額に算入すべきものであって修繕費に該当せず、また、残余の一六五万四四三〇円は昭和五六年に施工された修繕工事に係るものであって昭和五五年分の修繕費ではないから、右支払額二〇八万八〇〇〇円を必要経費から除外した。

ロ イと同様に原告が修繕費として必要経費に算入していたもののうち、西病棟鉄骨造り建物に係る工事代金として木下兼夫に支払った一一〇万円については、右病棟建物の取得価額に算入すべきものであって、修繕費に該当しないから必要経費から除外した。

(2) 接待交際費の否認額 一五〇万円

原告が修正申告による事業所得の金額の計算において接待交際費として必要経費に算入していたもののうち、三木申三後援会に対し寄附金として支払った一五〇万円については、原告の事業について生じた費用ではなく、接待交際費に該当しないから必要経費から除外した。

(3) 減価償却費の否認額 一一〇四万〇七五〇円

原告は、修正申告による事業所得の金額の計算において、原告がサンエイ薬品株式会社(以下「サンエイ薬品」という。)から購入した別表8「品名」「数量」欄記載のとおりのエースクラップ電気メスほか一四点及び弘和薬品株式会社(以下「弘和薬品」という。)から購入した別表9「品名」「数量」欄記載のとおりのクリニックプリンター付セットほか四点(以下「本件医療用機器」という。)につき、それが租税特別措置法(昭和五六年法律一三号による改正前のもの。以下同じ。)一二条の二第二項本文、同法施行令(昭和五六年政令七三号による改正前のもの。以下同じ。)六条の三第四項の規定に該当するものとして別紙8、9の各「特別償却額」欄記載のとおりの金額合計一一〇四万〇七五〇円を減価償却費として必要経費に算入している。

しかし、本件医療用機器はいずれも昭和五五年中に取得したものではなく、同年中に原告の営む医療保険業の用に供したものではない。

そうすると、本件医療用機器につき、同法に規定する特別償却をすることができないから、右特別償却額を必要経費から除外した。

また、原告は、サンエイ薬品及び弘和薬品から事実に基づかない請求書等の交付を受け、本件医療用機器を昭和五五年中に取得したかのごとく仮装していたもので、右事実は、国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前のもの。以下同じ。)六八条一項に規定する事実の仮装に該当する。

(4) 給料賃金の否認額 五〇〇三万三九九四円

イ 原告は、修正申告による事業所得の金額の計算において、田中健に対して支払った三三二八万六二三〇円を給料賃金として必要経費に算入している。

しかし、このうち、業務の遂行上必要な給料賃金と認められる額は七二六万八四二九円であるから、これを超える二六〇一万七八〇一円を業務の遂行上通常必要と認められない額として必要経費から除外した。

右業務の遂行上必要な給料賃金と認められる額は、次のすべての基準に該当する者が昭和五五年中に支払を受けた給与の総額の平均額により計算した。

〈1〉 徳島県立の各病院及び法人税法別表第二に掲げる公益法人である小松島赤十字病院に勤務する医師であること(徳島県立の各病院に勤務する医師の給与は、地方公務員法二四条三項所定のとおり、生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められたものであり、また、小松島赤十字病院に勤務する医師の給与についても、右に準ずるものと認められることによるものである。)。

〈2〉 昭和一九年四月から同二九年四月までの間に出生した者であること(田中健の生年月日は昭和二四年四月二一日であるから、年令の類似性を担保するため、これを中心に前後それぞれ五年以内に出生した者に限定したものである。)。

〈3〉 昭和五五年一月一日から同五七年一二月三一日までの間継続して勤務している者(非常勤である者を除く。)であること。

そして、右基準に該当する者が昭和五五年中に支払を受けた給与の総額の平均額の計算は別表4のとおりである。

ロ 原告は、イと同様に、田中真理子に対して支払った二四四八万円を給料賃金として必要経費に算入している。

しかし、このうち、業務の遂行上必要な給料賃金と認められる額は、四六万三八〇七円であるから、これを超える二四〇一万六一九三円を業務の遂行上通常必要と認められない額として必要経費から除外した。

右業務の遂行上必要な給料賃金と認められる額は、田中真理子が常勤の医師であるとは認められないことから、次のすべての基準に該当する者が昭和五五年中に支払を受けた給与の総額の平均額に、年間の総日数のうちに占める原告が提出した出勤簿写による出勤日数の割合を乗じて計算した。

〈1〉 徳島県立の各病院及び小松島赤十字病院に勤務する医師であること(理由はイと同じ。)。

〈2〉 昭和二一年九月から同三一年九月までの間に出生した者であること(田中真理子の生年月日は昭和二六年九月二三日であるから、年令の類似性を担保するため、これを中心に前後それぞれ五年以内に出生した者に限定したものである。)。

〈3〉 昭和五五年一月一日から同五七年一二月三一日までの間継続して勤務している者(非常勤である者を除く。)であること。

そして、右基準に該当する者が昭和五五年中に支払を受けた給与の総額の平均額の計算は別表5のとおりであり、また、業務の遂行上必要な給料賃金と認められる額の計算は次の算式のとおりである。

〈省略〉

(5) 青色事業専従者給与の否認額 一六九六万三二一二円

原告は、修正申告による事業所得の金額の計算において、田中静可に対して支払った二一六〇万円を青色事業専従者給与として必要経費に算入している。

しかし、このうち、労務の対価として相当な青色事業専従者給与と認められる額は、四六三万六七八八円であるから、これを超える一六九六万三二一二円を労務の対価として相当と認められない額として必要経費から除外した。

右労務の対価として相当な青色事業専従者給与と認められる額は、次のすべての基準に該当する者が昭和五五年中に支払を受けた青色事業専従者給与の額の平均額により計算した。

〈1〉 青色事業専従者給与を支払う者

イ 徳島県内において医療業を営む個人。ただし、主として内科の診療を行う者及び主として外科の診療を行う者に限る(原告の主たる診療科目が内科及び外科であるから、業種の類似性を担保するため、右診療科目に限定した。)。

ロ 昭和五五年一月一日から同五七年一二月三一日までの間事業を継続していること。

ハ 昭和五五年分から同五七年分までの所得税について継続して青色申告書を提出していること。

ニ 昭和五五年分から同五七年分までの所得税について不服申立て又は訴訟が係属中でないこと。

〈2〉 青色事業専従者給与の支払を受ける者

イ 青色事業専従者給与を支払う者の妻であること。

ロ 昭和五五年一月一日から同五七年一二月三一日までの間継続して事業に専ら従事していること。

ハ 医師、看護婦等医療業務に関連する資格を有しないこと。

そして、右基準に該当する者が昭和五五年中に支払を受けた青色事業専従者給与の額の平均額の計算は別表6のとおりである。

(二) 総所得金額 一億二二八〇万八六五四円

原告の昭和五五年分の総所得金額は右(一)の事業所得の金額と同額の一億二二八〇万八六五四円である。

(三) 所得税額(申告納税額) 六三二一万〇七〇〇円

右(二)の総所得金額一億二二八〇万八六五四円を基礎として計算した所得税額(源泉徴収に係る所得税を控除した後のもの、すなわち、申告納税額)は六三二一万〇七〇〇円である。

(四) 過少申告加算税額 二四七万八二〇〇円

右(三)の所得税額(申告納税額)六三二一万〇七〇〇円と修正申告に係る申告納税額五三六万五九〇〇円との差額に相当する増差所得額は五七八四万四八〇〇円であるが、右のうち過少申告加算税額の計算の基礎となるべき四九五六万四八〇〇円(重加算税の計算の基礎となるべき右(一)(3)の金額を除いた総所得金額を基礎にして計算した増差所得額)については、その計算の基礎となる事実が、原告の修正申告に係る所得税額(申告納税額)の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条二項に規定する正当な理由があるとはいえない。

右過少申告加算税額の計算の基礎となるべき四九五六万四八〇〇円について同法六五条一項、一一八条三項、一一九条四項により計算した過少申告加算税の額は、二四七万八二〇〇円となる。

(五) 重加算税額 二四八万四〇〇〇円

右増差所得税額五七八四万四八〇〇円のうち、重加算税額の計算の基礎となるべき八二八万円(増差所得税額五七八四万四八〇〇円から、過少申告加算税額の計算の基礎となるべき四九五六万四八〇〇円を控除した金額)について国税通則法六八条一項、一一八条三項、一一九条四項により計算した重加算税の額は二四八万四〇〇〇円となる。

2  原告の昭和五六年分の事業所得の金額、総所得金額、所得税額、過少申告加算税額及び重加算税額

(一) 事業所得の金額 九九七七万一六九二円

原告の昭和五六年分の事業所得の金額は、確定申告による事業所得の金額一四一〇万六〇九一円に次の(1)ないし(3)及び(6)ないし(8)を加算し、(4)及び(5)を減算した九九七七万一六九二円である。

(1) 消耗品費の否認額 二七九六万五六四〇円

原告が確定申告による事業所得の金額の計算において消耗品費として必要経費に算入していたもののうちサンエイ薬品に支払った二七九六万五六四〇円分の医療用消耗品(以下「本件消耗品」という。)については、いずれも昭和五七年以降に購入することを予定しているものであって昭和五六年分の消耗品費ではないから必要経費から除外した。

また、原告は、サンエイ薬品から事実に基づかない請求書等の交付を受け、本件消耗品を昭和五六年中に取得したかのごとく仮装していたもので、右事実は、国税通則法六八条一項に規定する事実の仮装に該当する。

(2) 旅費交通費の否認額 三〇万円

原告が確定申告による事業所得の金額の計算において旅費交通費として必要経費に算入しているもののうちハワイ出張の費用として田中静可に支払った三〇万円については、その出張の事実を証するものはなく、また、原告の事業の遂行上その出張が必要であったとする証拠もないから必要経費から除外した。

(3) 雑費の否認額 一八〇万円

イ 原告が確定申告による事業所得の金額の計算において雑費として必要経費に算入していたもののうち三木申三後援会に対し寄附金として支払った一五〇万円については、原告の事業について生じた費用ではなく、雑費に該当しないから必要経費から除外した。

ロ イと同様に原告が雑費として必要経費に算入していたもののうち徳島産業経済懇話会に対し特別会費として支払った三〇万円については、原告の事業について生じた費用ではなく、雑費に該当しないから必要経費から除外した。

(4) 修繕費の加算額 一六五万四四三〇円

1の(一)の(1)のイのとおり三野鉄骨株式会社に支払った二〇八万八〇〇〇円のうちの一六五万四四三〇円については、昭和五六年に施工された修繕工事に係るものであるから、同年分の修繕費として必要経費に加えた。

(5) 減価償却費の加算額 四万〇三七三円

1の(一)の(1)のイのとおり三野鉄骨株式会社に支払った二〇八万八〇〇〇円のうちの四三万三五七〇円については「古屋木造建築」の建物の取得価額に算入すべきものであり、また、1の(一)の(1)のロのとおり木下兼夫に支払った一一〇万円については西病棟鉄骨造り建物の取得価額に算入すべきものであるが、右各建物の取得価額に算入すべき金額に対応する部分について計算される昭和五六年分の減価償却費は四万〇三七三円となるから、右金額を必要経費に加えた。

(6) 給料賃金の否認額 四〇三五万五三三五円

イ 原告は、確定申告による事業所得の金額の計算において、田中健に対して支払った三一五一万九四四四円を給料賃金として必要経費に算入している。

しかし、このうち、業務の遂行上必要な給料賃金と認められる額は七九八万五二六七円であるから、これを超える二三五三万四一七七円を業務の遂行上通常必要と認められない額として必要経費から除外した。

右業務の遂行上必要な給料賃金と認められる額は、1の(一)の(4)のイに記載した〈1〉から〈3〉までのすべての基準に該当する者が昭和五六年中に支払を受けた給与の総額の平均額により計算した。

そして、右基準に該当する者が昭和五六年中に支払を受けた給与の平均額の計算は別表四4とおりである。

ロ 原告は、イと同様に、田中真理子に対して支払った一九〇五万円を給料賃金として必要経費に算入している。

しかし、このうち、業務の遂行上必要な給料賃金と認められる額は二二二万八八四二円であるから、これを超える一六八二万一一五八円を業務の遂行上通常必要と認められない額として必要経費から除外した。

右業務の遂行上必要な給料賃金と認められる額は、田中真理子が常勤の医師であるとは認められないことから、1の(一)の(4)のロに記載した〈1〉から〈3〉までのすべての基準に該当する者が昭和五六年中に支払を受けた給与の総額の平均額に年間の総日数のうちに占める原告が提出した出勤簿写による出勤日数の割合を乗じて計算した。

そして、右基準に該当する者が昭和五六年中に支払を受けた給与の総額の平均額の計算は別表5のとおりであり、また、業務の遂行上必要な給料賃金と認められる額の計算は次の算式のとおりである。

〈省略〉

(7) 青色事業専従者給与の否認額 一二四八万八九五四円

原告は、確定申告による事業所得の金額の計算において、田中静可に対して支払った一七四〇万円を青色事業専従者給与として必要経費に算入している。

しかし、このうち、労務の対価として相当な青色事業専従者給与と認められる額は四九一万一〇四六円であるから、これを超える一二四八万八九五四円を労務の対価として相当と認められない額として必要経費から除外した。

右労務の対価として相当な青色事業専従者給与と認められる額は、1の(一)の(5)に記載した〈1〉のイからニまで及び〈2〉のイからハまでのすべての基準に該当する者が昭和五六年中に支払を受けた青色事業専従者給与の額の平均額により計算した。

そして、右基準に該当する者が昭和五六年中に支払を受けた青色事業専従者給与の額の平均額の計算は別表6のとおりである。

(8) 租税公課の否認額 五三万三〇一〇円

減価償却費の否認額 一〇八万九三八三円

支払利息の否認額 二八二万八〇八二円

原告が確定申告による事業所得の金額の計算において租税公課、減価償却費及び支払利息として必要経費に算入していたもののうち、不動産取得税として支払った五三万三〇一〇円は、原告が徳島県三好郡三野町芝生一二一二番地において田中勉及びその家族の居住の用に供するために新築した建物(建築床面積二二九・八八平方メートル、建築価額四〇一八万八〇〇〇円。以下「院長住宅」という。)に係るものであり、減価償却費として計算した一〇八万九三八三円は右建物に係るものであり、更に、株式会社徳島相互銀行三野支店に利息として支払った二八二万八〇八二円は、右建物の新築のための借入金に係るものである。

しかし、これらは、いずれも右建物の新築に伴う家事上の経費というべきであって業務の遂行上通常必要な経費とは認められないから、右金額をそれぞれ必要経費から除外した。

(二) 総所得金額 一億〇〇一六万八九九二円

原告の昭和五六年分の総所得金額は、右(一)の事業所得の金額に雑所得の金額となる所得税の還付金に係る還付加算金三九万七三〇〇円を加算した一億〇〇一六万八九九二円である。

(三) 所得税額(申告納税額) 四五四六万九六〇〇円

右(二)の総所得金額一億〇〇一六万八九九二円を基礎として計算した所得税額(源泉徴収に係る所得税を控除した後のもの、すなわち、申告納税額)は、四五四六万九六〇〇円である。

(四) 過少申告加算税額 一七三万七九〇〇円

右(三)の所得税額(申告納税額)四五四六万九六〇〇円に確定申告に係る還付金の額に相当する税額九七六万八一二二円を加えた額に相当する増差所得税額は五五二三万七七二二円であるが、右のうち過少申告加算税額の計算の基礎となるべき三四七五万九一二二円(重加算税の計算の基礎となるべき(一)(1)の金額を除いた総所得金額を基礎にして計算した増差所得税額)については、その計算の基礎となる事実が、原告の確定申告に係る所得税額(申告納税額)の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条二項に規定する正当な理由があるとはいえない。

右過少申告加算税額の計算の基礎となるべき三四七五万九一二二円について同法六五条一項、一一八条三項、一一九条四項により計算した過少申告加算税の額は一七三万七九〇〇円となる。

(五) 重加算税額 六一四万三四〇〇円

増差所得税額五五二三万七七二二円のうち、重加算税額の計算の基礎となるべき二〇四七万八六〇〇円(増差所得税額五五二三万七七二二円から、過少申告加算税額の計算の基礎となるべき三四七五万九一二二円を控除した金額)について国税通則法六八条一項、一一八条三項、一一九条四項により計算した重加算税の額は六一四万三四〇〇円となる。

3  原告の昭和五七年分の事業所得の金額、総所得金額、所得税額及び過少申告加算税額

(一) 事業所得の金額 八一七五万七八九〇円

原告の昭和五七年分の事業所得の金額は、確定申告による事業所得の金額一七八三万五五二二円に次の(1)ないし(5)及び(8)ないし(11)を加算し、(6)及び(7)を減算した八一七五万七八九〇円である。

(1) 収入金額の加算額 五五五万三七三八円

イ 原告は、確定申告による事業所得の金額の計算において、健康保険に係る昭和五七年分の診療収入が四億九五六七万二一七三円であるのに、これを四億九五三八万〇一三五円としているので、右両者の差額二九万二〇三八円を収入金額に加えた。

ロ 原告は、イと同様に、自動車損害賠償責任保険に係る昭和五七年分の診療収入として安田火災海上保険株式会社ほか七社から収入すべき五二六万一七〇〇円を収入金額に算入していないので、これを収入金額に加えた。

(2) 通信費の否認額 三二万円

原告が確定申告による事業所得の金額の計算において通信費として必要経費に算入していたもののうち電話設備料として支払った三二万円については、電話加入権の取得価額に算入すべきものであって通信費に該当しないから必要経費から除外した。

(3) 研修費の否認額 八四万円

原告が確定申告による事業所得の金額の計算において研修費として必要経費に算入していたもののうち医科大事典二五巻の代金として久米書店に支払った八四万円については、備品の取得価額に算入すべきものであって研修費に該当しないから必要経費から除外した。

(4) 損害保険料の否認額 七一二万円

原告は、確定申告による事業所得の金額の計算において、安田火災海上保険株式会社ほか一社に対して支払った一三三五万円を損害保険料として必要経費に算入しているが、そのうちの七一二万円については、翌年以降の期間に対応する未経過保険料として計算すべきものであって、昭和五七年分の損害保険料に該当しないから、必要経費から除外した。

(5) 雑費の否認額 二一一二万八〇〇〇円

イ 原告が確定申告による事業所得の金額の計算において雑費として必要経費に算入していたもののうち駐車場の工事代金として大成建設株式会社ほか二社に対して支払った五五七万八〇〇〇円については、駐車場設備の取得価額に算入すべきものであって雑費に該当しないから必要経費から除外した。

ロ イと同様に、原告が雑費として必要経費に算入していたもののうち建築工事に係るミスの損害金として大成建設株式会社に対して支払った一五〇〇万円については、建物の取得価額に算入すべきものであって雑費に該当しないから必要経費から除外した。

ハ イと同様に、原告が雑費として必要経費に算入していたもののうち徳島産業経済懇話会に対し特別会費として支払った三〇万円については、原告の事業について生じた費用でなく、雑費に該当しないから必要経費から除外した。

ニ イと同様に、原告が雑費として必要経費に算入していたもののうち「新しい徳島をつくるみんなの会」に対し会費として支払った二五万円については、原告の事業について生じた費用でなく、雑費に該当しないから必要経費から除外した。

(6) 消耗品費の加算額 二三八五万五六〇〇円

2の(一)の(1)の昭和五六年分の本件消耗品費の否認額二七九六万五六四〇円のうちの二三八五万五六〇〇円については、昭和五七年において購入の上、事業の用に供されているので、同年分の消耗品費として必要経費に加えた。

(7) 減価償却費の加算額 一三二万三三四三円

イ 2の(一)の(5)と同様、当該建物の取得価額に算入すべき金額に対応する部分について計算される昭和五七年分の減価償却費は五万三八二九円となるから、右金額を必要経費に加えた。

ロ (3)のとおり久米書店に支払った八四万円については備品の取得価額に算入すべきものであるが、右備品の取得価額に算入すべき金額について計算される昭和五七年分の減価償却費は一五万四九八〇円となるから、右金額を必要経費に加えた。

ハ (5)のイのとおり大成建設株式会社ほか二社に対して支払った五五七万八〇〇〇円については駐車場設備の取得価額に算入すべきものであり、また、(5)のロのとおり大成建設株式会社に支払った一五〇〇万円については建物の取得価額に算入すべきものであるが、右駐車場設備及び建物の取得価額に算入すべき金額に対応する部分について計算される昭和五七年分の減価償却費は一一一万四五三四円となるから、右金額を必要経費に加えた。

(8) 給料賃金の否認額 三二六四万七七三八円

イ 原告は、確定申告による事業所得の金額の計算において、田中健に対して支払った二八九五万四六八七円を給料賃金として必要経費に算入している。

しかし、このうち、業務の遂行上必要な給料賃金と認められる額は、八四九万一一八七円であるから、これを超える二〇四六万三五〇〇円を業務の遂行上通常必要と認められない額として必要経費から除外した。

右業務の遂行上必要な給料賃金と認められる額は、1の(一)の(4)のイに記載した〈1〉から〈3〉までのすべての基準に該当する者が昭和五七年中に支払を受けた給与の総額の平均額により計算した。

そして、右基準に該当する者が昭和五七年中に支払を受けた給与の平均額の計算は別表4のとおりである。

ロ 原告は、イと同様に、田中真理子に対して支払った一九〇八万五二四二円を給料賃金として必要経費に算入している。

しかし、このうち、業務の遂行上必要な給料賃金と認められる額は六九〇万一〇〇四円であるから、これを超える一二一八万四二三八円を業務の遂行上通常必要と認められない額として必要経費から除外した。

右業務の遂行上必要な給料賃金と認められる額は、次の〈1〉及び〈2〉の合計額により計算した。

〈1〉 田中真理子が常勤の医師であったとは認められない昭和五七年一月から同年三月までの期間については、1の(一)の(4)のロに記載した〈1〉から〈3〉までのすべての基準に該当する者が昭和五七年中に支払を受けた給与の総額の平均額の右期間に対応する額に右期間の日数のうちに占める原告が提出した出勤簿の写による右期間における出勤日数の割合を乗じて計算した額

〈2〉 田中真理子が常勤することとなったと認められる昭和五七年四月から同年一二月までの期間については、1の(一)の(4)のロに記載した〈1〉から〈3〉までのすべての基準に該当する者が昭和五七年中に支払を受けた給与の総額の平均額の右期間に対応する額

そして、右の基準に該当する者が昭和五七年中に支払を受けた給与の総額の平均額の計算は別表5のとおりであり、また、業務の遂行上必要な給料賃金と認められる額の計算は次の算式のとおりである。

〈1〉 昭和57年1月から同年3月までの期間に係る額

〈省略〉

〈2〉 昭和57年4月から同年12月までの期間に係る額

〈省略〉

〈3〉 〈1〉、〈2〉の合計

648,417円+6,252,587円=6,901,004円

(9) 青色事業専従者給与の否認額 一〇九〇万五五七五円

原告は、確定申告による事業所得の金額の計算において、田中静可に対して支払った一六四〇万円を青色事業専従者給与として必要経費に算入している。

しかし、このうち、労務の対価として相当な青色事業専従者給与と認められる額は五四九万四四二五円であるから、これを超える一〇九〇万五五七五円を労務の対価として相当と認められない額として必要経費から除外した。

右労務の対価として相当な青色事業専従者給与と認められる額は、1の(一)の(5)に記載した〈1〉のイからニまで及び〈2〉のイからハまでのすべての基準に該当する者が昭和五七年中に支払を受けた青色事業専従者給与の額の平均額により計算した。

そして、右基準に該当する者が昭和五七年中に支払を受けた青色事業専従者給与の額の平均額の計算は別表6のとおりである。

(10) 減価償却費の否認額 一六三万四〇七五円

支払利息の否認額 二八六万九二八九円

原告が確定申告による事業所得の金額の計算において減価償却費及び支払利息として必要経費に算入していたもののうち、減価償却費として計算した一六三万四〇七五円は2の(一)の(8)に記載した院長住宅に係るものであり、また、株式会社徳島相互銀行三野支店に利息として支払った二八六万九二八九円は右建物の新築のための借入金に係るものである。

しかし、これらは、いずれも右建物の新築に伴う家事上の経費というべきであって、業務の遂行上通常必要な経費とは認められないから、右金額をそれぞれ必要経費から除外した。

(11) 損害保険料の否認額 六〇八万二八九六円

原告が確定申告による事業所得の金額の計算において損害保険料として必要経費に算入していたものとして、別表7記載のとおり住友生命保険相互会社(以下「住友生命」という。)ほか三社との間の五口の生命保険契約(以下「本件保険」という。)に係る保険料六〇八万二八九六円がある。

しかし、本件保険料は、家事上の経費というべきであって業務の遂行上通常必要な経費とは認められないから必要経費から除外した。

(二) 総所得金額 八一九〇万五八九〇円

原告の昭和五七年分の総所得金額は、右(一)の事業所得の金額に雑所得の金額となる所得税の還付金に係る還付加算金一四万八〇〇〇円を加算した八一九〇万五八九〇円である。

(三) 所得税額(申告納税額) 二二八八万四三〇〇円

右(二)の総所得金額八一九〇万五八九〇円を基礎として計算した所得税額(源泉徴収に係る所得税を控除した後のもの、すなわち、申告納税額)は二二八八万四三〇〇円である。

(四) 過少申告加算税額 二〇四万二七〇〇円

右(三)の所得税額(申告納税額)二二八八万四三〇〇円に確定申告に係る還付金の額に相当する税額一七九七万〇一五二円を加えた額に相当する増差所得税額は四〇八五万四四五二円であるが、その計算の基礎となる事実が、原告の確定申告に係る所得税額(申告納税額)の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条二項に規定する正当な理由があるとはいえない。

右増差所得税額四〇八五万四四五二円について同法六五条一項、一一八条三項、一一九条四項により計算した過少申告加算税の額は二〇四万二七〇〇円となる。

4  本件各処分の適法性

原告の本件係争各年分の総所得金額、所得税額(申告納税額)及び過少申告加算税額並びに昭和五五年分及び同五六年分の重加算税額は前記のとおりであるところ、本件各処分に係る総所得金額、所得税額(申告納税額)、過少申告加算税額及び重加算税額はそれぞれ右の範囲内であるから、本件各処分はいずれも適法である。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)の冒頭の部分のうち、原告の昭和五五年分の事業所得の金額が修正申告による事業所得の金額四〇〇八万二六九八円に被告主張の同(1)、(2)の金額を加算すべきであることは認め、同(3)ないし(5)の金額を加算すべきであることは争う。

(1) 同(1)、(2)の事実はいずれも認める。

(2) 同(3)のうち、第一段の事実は認め、その余は否認する。

(3) 同(4)のうち、イ、ロの各第一段の事実は認め、その余は否認する。

(4) 同(5)のうち、第一段の事実は認め、その余は否認する。

(二)  同1(二)のうち、原告の昭和五五年分の総所得金額が事業所得の金額と同額であることは認め、右総所得金額が一億二二八〇万八六五四円となることは争う。

(三)  同1(三)ないし(五)のうち、同(一)、(二)の事実を前提とした計数は争い、右事実を前提としたときの計数及び計算関係は認める。

2(一)  抗弁2(一)の冒頭の部分のうち、原告の昭和五六年分の事業所得の金額が確定申告による事業所得の金額一四一〇万六〇九一円に被告主張の同(1)ないし(3)の金額を加算し、(4)、(5)の金額を減算すべきであることは認め、同(6)ないし(8)の金額を加算すべきであることは争う。

(1) 同(1)のうち、第一段の事実は認め、その余は否認する。

(2) 同(2)ないし(5)の事実は認める。

(3) 同(6)のうち、イ、ロの各第一段の事実は認め、その余は否認する。

(4) 同(7)のうち、第一段の事実は認め、その余は否認する。

(5) 同(8)のうち、第一段の事実は認め、その余は否認する。

(二)  同2(二)のうち、原告の昭和五六年分の総所得金額が事業所得の金額に雑所得の金額となる所得税の還付金に係る還付加算金三九万七三〇〇円を加算した金額であることは認め、右総所得金額が一億〇〇一六万八九九二円となることは争う。

(三)  同2(三)ないし(五)のうち、同(一)、(二)の事実を前提とした計数は争い、右事実を前提としたときの計数及び計算関係は認める。

3(一)  抗弁3(一)の冒頭の部分のうち、原告の昭和五七年分の事業所得の金額が確定申告による事業所得の金額一七八三万五五二二円に被告主張の同(1)ないし(5)の金額を加算し、(6)、(7)の金額を減算すべきであることは認め、同(8)ないし(11)の金額を加算すべきであることは争う。

(1) 同(1)ないし(7)の事実は認める。

(2) 同(8)のうち、イ、ロの各第一段の事実は認め、その余は否認する。

(3) 同(9)のうち、第一段の事実は認め、その余は否認する。

(4) 同(10)のうち、第一段の事実は認め、その余は否認する。

(5) 同(11)のうち、第一段の事実は認め、その余は否認する。

(二)  同3(二)のうち、原告の昭和五七年分の総所得金額が事業所得の金額に雑所得の金額となる所得税の還付金に係る還付加算金一四万八〇〇〇円を加算した金額であることは認め、右総所得金額が八一九〇万五八九〇円となることは争う。

(三)  同3(三)及び(四)のうち、同(一)、(二)の事実を前提とした計数は争い、右事実を前提としたときの計数及び計算関係は認める。

4  抗弁4の主張は争う。

五  原告の主張

1  本件医療用機器の減価償却費の否認額(抗弁1(一)(3))及びこれを前提とする本件重加算税賦課決定1について

原告は、他の医師や薬品会社の取締役からの助言から、本件医療用機器の買入れについては租税特別措置法一二条の二第二項本文、同法施行令六条の適用を受けることができるものと誤解したものである。また、原告は、修正申告による事業所得の金額の計算において、原告が自ら本件医療用機器についての前記金額を減価償却費として必要経費に算入したものでもなければ、備付けの帳簿に虚偽の記載をし、サンエイ薬品及び弘和薬品から事実に基づかない請求書等の交付を受けたものでもない。したがって、原告が修正申告による事業所得の金額の計算において本件医療用機器についての前記金額を必要経費に算入したことに事実の仮装があったとする本件重加算税賦課決定1は違法である。

2  給料賃金の否認額(抗弁1(一)(4)、同2(一)(6)、同3(一)(8))について

原告は、かねてから医師免許を取得し、徳島県三好郡三野町に田中病院(以下「三野町・田中病院」という。)を開設していたが、昭和五七年四月五日からは同県同郡三加茂町にも田中病院(以下「三加茂町・田中病院」という。)を開設した。

しかし、三野町及び三加茂町はいずれもいわゆる医療過疎地域であり、このような地域で病院を経営するには、病院に常勤医として勤務する医師を確保して経営の継続を図るために将来常勤医として勤務することが期待される医師に対しては高額の給料賃金を支給しておくことが必要不可欠である。

のみならず、原告は、病院の経営継続の必要から、田中健、田中真理子の両医師に対しては右両病院で現実に勤務することのほか、大阪、京都方面で医学研究に従事し、臨床医としての研さんを積む一方、最新の医療情報を提供することなどを指示した。両医師は、これに応えて、支給された給料賃金以上の仕事をしたのである。

したがって、原告が右両医師に対して支払った給料賃金は必要経費として相当な金額である。

3  青色事業専従者給与の否認額(抗弁1(一)(5)、同2(一)(7)、同3(一)(9))について

田中静可は、昭和五五年から三加茂町・田中病院の開設前の同五七年四月五日までは、同病院の開設準備のために、建築設計、資金繰り、機器、器具の購入などにつき財政及び外交の一切を担当して東奔西走した。また、平素も、原告の営む前記両病院の経営一般、管理、財政、出納全般の事務に従事していたのであるから、原告が田中静可に対して支払った青色事業専従者給与は必要経費として相当な金額である。

4  本件消耗品費の仮装の事実(抗弁2(一)(1)第二段)及びこれを前提とする本件重加算税賦課決定2について

原告は、他の医師や薬品会社の取締役からの助言から、消耗品の買入れに要した費用については買い入れた年分の必要経費に算入することができるものと誤解したものである。

したがって、原告が確定申告による事業所得の金額の計算において本件消耗品費を必要経費に算入したことに事実の仮装があったとする本件重加算税賦課決定2は違法である。

5  院長住宅に係る租税公課等の否認額(抗弁2(一)(8)、同3(一)(10))について

院長住宅は、原告の経営する三野町・田中病院の院長として勤務する者のために提供される住宅であって、田中勉の個人住宅ではない。

したがって、院長住宅について生じた経費は、原告の事業の用に供される資産について生じた経費として必要経費とされるべきである。

6  損害保険料の否認額(抗弁3(一)(11))について

原告は、三加茂町・田中病院を建設するにあたり、株式会社徳島相互銀行三野支店から建設資金を借り入れ、その際、同銀行の要請により、住友生命ほか三社との間で問題の保険契約を締結した。この保険は、原告を被保険者とする「掛け捨て保険」であり、原告の妻田中静可を受取人としているが、それは、保険契約上、株式会社徳島相互銀行を受取人とすることができなかったことと田中静可が右借入金の連帯保証人となっているためである。

したがって、その保険料は、三加茂町・田中病院の建設資金借入れという原告の事実に関連して負担し支払ったものであるから、必要経費とされるべきである。

第三証拠

本件記録中の「書証目録」及び「証人等目録」に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実(原告の職業及びその所得についての課税の経緯)は当事者間に争いがない。

二  原告の昭和五五年分の事業所得の金額、総所得金額、所得税額、過少申告加算税額及び重加算税額について

1  事業所得の金額

(一)  原告の昭和五五年分の事業所得の金額が修正申告による事業所得の金額四〇〇八万二六九八円に抗弁1(一)(1)、(2)の金額を加算すべきであること、右(1)の金額が三一八万八〇〇〇円、(2)の金額が一五〇万円であることは当事者間に争いがない。

(二)  本件医療用機器の減価償却費の否認額の適否(抗弁1(一)(3)、原告の反論1)

原告が、修正申告による事業所得の金額の計算において、本件医療用機器が租税特別措置法一二条の二第二項本文、同法施行令六条の三第四項に該当する医療用機器であるとして一一〇四万〇七五〇円を減価償却費として必要経費に算入したことは当事者間に争いがない。

ところで、租税特別措置法一二条の二第二項本文は、青色申告書を提出する個人で、医療保険業を営む者が、昭和五四年四月一日から同五六年三月三一日までの間に、その製作後事業の用に供されたことのない医療用機器で、政令の定めるものを取得し、これを当該個人の営む医療保険業の用に供した場合には、その用に供した日の属する年における当該個人の事業所得の金額の計算上、当該医療用機器の償却費として必要経費に算入する金額は、所得税法四九条一項の規定にかかわらず、当該医療用機器について同項の規定により計算した償却費の額とその取得価額の一〇〇分の二五に相当する金額との合計額以下の金額で、当該個人が必要経費として計算した金額とする旨を規定し、また、租税特別措置法施行令六条の三第四項は、右医療用機器は一台又は一基の取得価格が八〇万円以上のものとする旨を規定している。これを本件についてみるのに、いずれも原本の存在及びその成立に争いのない乙第一七号証の一ないし七、第一八号証の一ないし三、第一九号証、第二〇、第二一号証の各一ないし三、第二二、第二三号証の各一ないし五、第二四号証、証人新田旭の証言といずれもこれにより真正に成立したと認められる乙第三二ないし第三七号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告がサンエイ薬品及び弘和薬品から本件医療用機器を受納した時期は昭和五六年一月以後であること、ところが、原告が備え付けている帳簿には、右受納時期について別表8、9の各「帳簿記載年月日」欄記載のとおり昭和五五年中である旨の虚偽の記載がされており、また、サンエイ薬品及び弘和薬品作成の受注メモ、売掛表、請求書、納品書及び請求明細書にも、本件医療用機器を納入した時期が昭和五五年中である旨の虚偽の記載がされていること、原告は、サンエイ薬品及び弘和薬品から右虚偽の記載がされた請求書の交付を受けていたこと、原告が備え付けている右帳簿並びにサンエイ薬品及び弘和薬品作成の右受注メモ等の虚偽の記載は、原告の命により修正申告書の作成提出等の事務を担当した原告の従業員又は原告の顧問税理士の指示に基づき、サンエイ薬品及び弘和薬品と通謀のうえでされたものであることが認められ、右認定に反する原告本人の供述部分は前掲各証拠に照らしてにわかに採用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、本件医療用機器については前記法条の規定による特別償却をすることができないから、前記一一〇四万〇七五〇円は原告の昭和五五年分の事業所得の金額の計算において必要経費に算入することは許されないものである。のみならず、原告は、その備付けの帳簿に虚偽の記載をし、サンエイ薬品及び弘和薬品から事実に基づかない請求書の交付を受け、本件医療用機器を昭和五五年中に取得したかのように仮装したのであって、このことは国税通則法六八条一項に該当するということができる。

この点について、原告は、知合いの医師等からの助言により、医療用機器の買入れの約定をしたことによって直ちに前記法条の適用を受けることができるものと誤解した旨を主張するが、右法条は「医療用機器を取得し、これを当該個人の営む医療保険業の用に供した場合」において適用のあることを明定しているのであるから、原告に右のような誤解があったとしても、これをもって、原告が国税通則法六八条一項に規定する重加算税の賦課決定を免れる事由とすることはできない。また、原告は、修正申告による事業所得の金額の計算において、原告が自ら本件医療用機器についての前記金額を減価償却費として必要経費に算入したのでもなければ、その備付けの帳簿に虚偽の記載をしたり、サンエイ薬品及び弘和薬品から事実に基づかない請求書等の交付を受けたものでもない旨主張するが、前認定のとおり、これらのことは原告の命により修正申告書の作成提出等の事務を担当した原告の従業員又は原告の顧問税理士の指示によってされたのであるから、これを原告が自らしたと同視して差支えないものというべきである。

(三)  給料賃金の否認額の適否(抗弁1(一)(4)、原告の反論2)

原告が、修正申告による事業所得の金額の計算において、田中健に対して支払ったとされる三三二八万六二三〇円及び田中真理子に対して支払ったとされる二四四八万円をいずれも給料賃金として必要経費に算入したことは当事者間に争いがない。

しかしながら、いずれも成立に争いのない乙第二ないし第六号証、いずれも原本の存在及びその成立に争いのない乙第七、第八号証の各一、二、第九号証の一ないし一〇、証人新田旭の証言といずれもこれにより真正に成立したと認められる乙第三八ないし第四一号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 田中健(昭和二四年四月二一日生まれ)は、原告の二男であり、昭和四九年三月大阪大学医学部を卒業して、同年五月一一日医師免許を取得し、同年六月から同五〇年六月まで大阪大学附属病院第三内科に、同年七月から同五一年六月まで北海道遠軽厚生総合病院内科に、同年七月から同五四年六月まで市立堺病院内科にそれぞれ勤務した。その後、大阪大学放射線医学教室研究生として研究に従事(原則として毎週火曜日から金曜日まで登校)するかたわら、同五六年一月から関西労災病院に(原則として毎週水曜日のみ出勤し、昭和五六年中の出勤日数は四四日、同五七年中の出勤日数は四八日)、同五七年七月から淀川勤労者厚生病院に(原則として毎週水曜日のみ出勤し、昭和五七年中の出勤日数は二四日)、同年一〇月から市立吹田市民病院に(原則として毎週月曜日のみ出勤し、昭和五七年中の出勤日数は一二日)それぞれ非常勤医師として勤務していたものである。

田中健は、妻田中真理子とともに、少なくとも昭和五三年ころから同六〇年までの間大阪府下に居住していたが、同年四月ころ故郷である徳島県三好郡三野町近辺に帰ってきた。

(2) 田中真理子(昭和二六年九月二三日生まれ)は、田中健の妻であり、昭和五一年三月京都府立医科大学を卒業し、それから同五三年三月まで同大学第一内科で研修に従事し、この間同五一年五月七日に医師免許を取得した。その後、同五三年四月一二日に長女を、同五四年七月一四日に二女を、同五五年七月二五日に長男をそれぞれ出産し、同五七年四月から大阪大学微生物研究所の研究生として研究に従事(原則として毎週月曜日から金曜日まで登校)していたものである。

(3) 原告は、医師免許を有し以前から診療所を開設し経営していたが、昭和三八年ころこれを廃止して、三野町・田中病院を開設し、昭和五七年四月五日からは三加茂町・田中病院を開設し、以来、両病院の経営に当っているものである。

原告が右両病院に備え付けている出勤簿には、田中健については、昭和五六年中は一七三日、同五七年中は二一九日それぞれ出勤した旨の押印があり、田中真理子については、昭和五五年中は二四日、同五六年中は一〇四日、同五七年中は二五九日(同年一月から三月までは二八日、同年四月以後は二三一日)それぞれ出勤した旨の押印がある。

しかし、右出勤簿の各押印は、田中健及び田中真理子が右両病院に出勤した日ごとに自分でしたものではなく、原告の指示により、両病院の事務員が一定期間分をまとめてしたものである。このため、右出勤簿のうち田中健に係る分については、関西労災病院、淀川勤労者厚生病院及び市立吹田市民病院などに非常勤医師として勤務した日にも押印がされている。また、三加茂町・田中病院を開設した昭和五七年四月五日以後には、田中健及び田中真理子の両名について現実に出勤していない日にも両病院の出勤簿には押印がされている。

(4) 徳島県立の各病院及び小松島赤十字病院に勤務する医師(非常勤である者を除く。)で、田中健と年齢、ひいては医師としての経験が類似するとみられる者が支給を受けている給与の額及びその平均額は別表4記載のとおりであって、その平均額は昭和五五年において七二六万八四二九円、同五六年において七九八万五二六七円、同五七年において八四九万一一八七円である。

徳島県立の各病院及び小松島赤十字病院に勤務する医師(非常勤である者を除く。)で、田中真理子と年齢、ひいては医師としての経験が類似するとみられる者が支給を受けている給与の額及びその平均額は別表5記載のとおりであって、その平均額は昭和五五年において七〇七万三〇五二円、同五六年において七八二万二三七七円、同五七年において八三三万六七八二円である。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、原告が昭和五五年中に田中健に対して支払ったとされる三三二八万六二三〇円の給料賃金のうち、原告の業務の遂行上必要な給料賃金の額は別表4記載の昭和五五年における平均額である七二六万八四二九円を超えるものではないとみるのが相当であるから、これを超える二六〇一万七八〇一円は必要経費から除外すべきものである。同様に、原告が昭和五五年中に田中真理子に対して支払ったとされる二四四八万円の給料賃金のうち、原告の業務の遂行上必要な給料賃金の額は別表5記載の昭和五五年における平均額である七〇七万三〇五二円を基準としてこれを三六六日で除したうえ原告がその開設する病院に備え付けている出勤簿に田中真理子が出勤したものとして押印された日数である二四日を乗じて計算される四六万三八〇七円(円未満端数切り上げ)を超えるものではないとみるのが相当であるから、これを超える二四〇一万六一九三円は必要経費から除外すべきものである。

原告は、医療過疎地域に立地する前記両病院の経営を継続していくには、将来両病院に常勤医として勤務する予定の医師に対しては高額の給料賃金を支給しておくことが必要不可欠である旨を主張するが、右認定の田中健及び田中真理子と原告との身分関係、右両名の前記両病院での実際の稼働状況、徳島県立の各病院及び小松島赤十字病院に勤務する医師(非常勤である者を除く。)で両名とも年齢、ひいては医師としての経験が類似するとみられる者が支給を受けている給与の平均額等に照らすと、右主張はにわかには首肯し難く、他にその合理性を裏付けるに足りる資料もない。

そうすると、右給料賃金のうち必要経費から除外すべき金額は合計五〇〇三万三九九四円となる。

(四)  青色事業専従者給与の否認額の適否(抗弁1(一)(5)、原告の反論3)

原告が、修正申告による事業所得の金額の計算において、田中静可に対して支払ったとされる二一六〇万円を青色事業専従者給与として必要経費に算入していることは当事者間に争いがない。

ところで、事業所得の金額の計算において必要経費に算入することのできる青色事業専従者の給与の金額については、所得税法五七条一項、同法施行令一六四条は、その給与の金額で、その労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況及びその事業と同種の事業でその規模が類似するものに従事する者が支払を受ける給与の状況、その事業の種類及び規模並びに収益の状況に照らし、その労務の対価として相当であると認められる金額とする旨を規定している。そして、いずれも成立に争いのない乙第一〇号証、第一一号証の一ないし三、第一二ないし第一六号証の各一、二、いずれも原本の存在及びその成立に争いのない乙第二六号証、第二七号証の一ないし三、証人新田旭の証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 田中静可(大正一一年七月二五日生まれ)は、原告の妻であるが、医師、看護婦等医療業務に関連する資格はなく、所得税法五七条二項により原告が所轄税務署長に提出した書類には、原告の営む医療業の経営一般、管理、財政、出納全般の事務に従事するものとされている。

(2) 昭和五五年一月一日から三加茂町・田中病院開設前の同五七年四月四日までは、三野町・田中病院には、事務担当職員が少なくとも一二、三名おり、事務長は林サトコ(同五六年三月まで)及び辺見幸子(同五六年四月以後)であった。三加茂町・田中病院開設以後の昭和五七年四月五日以後は、三野町・田中病院の事務長は辺見幸子、三加茂町・田中病院の事務長は川原満里子であった。

原告が昭和五五年に三野町・田中病院に勤務する職員に支払った給与で、医師及び原告の親族を除く職種別の最高額は、薬剤師である清水久美子に対する四八五万一七五五円、看護助手である辺見幸子に対する四五三万〇三五八円、事務長である林サトコに対する三七四万六八五五円であった。

原告が昭和五六年に三野町・田中病院に勤務する職員に支払った給与で、医師及び原告の親族を除く職種別の最高額は、薬剤師である清水久美子に対する四二二万一〇二八円、当初看護助手であり途中から事務長となった辺見幸子に対する四三一万八八三五円であった。

原告が昭和五七年に右両病院に勤務する職員に支払った給与で、医師及び原告の親族を除く職種別の最高額は、薬剤師である清水久美子に対する四三〇万〇四三三円、三野町・田中病院の事務長である辺見幸子に対する四〇六万九七二九円であり、三加茂町・田中病院の事務長である川原満里子に対する同年の給与は三二三万二七三九円であった。

(3) 原告の医療業に係る診療科目は、特に限定されていないが、その業務の性質上、内科及び外科が主たる診療科目になっていた。徳島県内において医療業を営む個人(但し、主として内科の診療を行う者及び主として外科の診療を行う者に限る。)の妻で、その事業に専ら従事し、かつ、医師、看護婦等医療業務に関連する資格を有しない者が青色事業専従者として支給を受けている給与の額及びその平均額は、別表6記載のとおりであって、その平均額は昭和五五年において四六三万六七八八円、同五六年において四九一万一〇四六円、同五七年において五四九万四四二五円である。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。他に、田中静可が従事したとされる原告の営む医療業の経営一般、管理、財政、出納全般の事務の内容についてはその具体的な態様等を認めるに足りる的確な証拠はない。

右事実によれば、原告が昭和五五年中に田中静可に対して支払ったとされる二一六〇万円の青色事業専従者給与のうち、その労務の対価として相当であると認められる金額は別表6記載の昭和五五年における平均額である四六三万六七八八円を超えるものではないとみるのが相当であるから、これを超える一六九六万三二一二円は必要経費から除外すべきものである。

(五)  以上によれば、原告の昭和五五年分の事業所得の金額は、修正申告による事業所得の金額四〇〇八万二六九八円に、抗弁1(一)(1)の金額三一八万八〇〇〇円、同(2)の金額一五〇万円、前記(二)認定の金額一一〇四万〇七五〇円、同(三)認定の金額五〇〇三万三九九四円、同(四)認定の金額一六九六万三二一二円を加算した一億二二八〇万八六五四円となる。

2  総所得金額

原告の昭和五五年分の総所得金額が事業所得の金額と同額であることは当事者間に争いがないところ、右事業所得の金額が一億二二八〇万八六五四円となることは前記1認定のとおりであるから、右総所得金額一億二二八〇万八六五四円となる。

3  所得税額(申告納税額)、過少申告加算税額及び重加算税額

原告の昭和五五年分の所得税額(申告納税額)、過少申告加算税額及び重加算税額については、抗弁1(一)、(二)の事実を前提としたときの計数及び計算関係は当事者間に争いがないところ、過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額に関し、その計算の基礎となる事実が原告の修正申告に係る所得税額(申告納税額)の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条二項に規定する正当な理由があると認めるに足りる証拠はないうえ、抗弁1(一)、(二)の事実は前記1、2のとおりこれを認めることができるから、右所得税額(申告納税額)は六三二一万〇七〇〇円、右過少申告加算税額は二四七万八二〇〇円及び右重加算税額は二四八万四〇〇〇円となる。

三  原告の昭和五六年分の事業所得の金額、総所得金額、所得税額、過少申告加算税額及び重加算税額について

1  事業所得の金額

(一)  原告の昭和五六年分の事業所得の金額が確定申告による事業所得の金額一四一〇万六〇九一円に抗弁2(一)(1)ないし(3)の金額を加算し、(4)及び(5)の金額を減算すべきであること、右(1)の金額が二七九六万五六四〇円、(2)の金額が三〇万円、(3)の金額が一八〇万円、(4)の金額が一六五万四四三〇円、(5)の金額が四万〇三七三円であることは当事者間に争いがない。

(二)  本件消耗品費についての事実の仮装の存否(抗弁2(一)(1)第二段、原告の反論4)

原告が確定申告による事業所得の金額の計算において、消耗品費として必要経費に算入したもののうちサンエイ薬品に支払った二七九六万五六四〇円分の本件消耗品については、いずれも昭和五七年以降に購入することを予定していたものであって、昭和五六年分の消耗品費ではなかったことは当事者間に争いがない。

そして、原本の存在及びその成立に争いのない乙第二五号証の一ないし三九、証人新田旭の証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告が備え付けている帳簿には、本件消耗品を受納した時期は昭和五六年中である旨の虚偽の記載がされており、また、サンエイ薬品作成の売掛表及び請求書にも、本件消耗品を納入した時期が昭和五六年中である旨の虚偽の記載がされていること、原告は、サンエイ薬品から右虚偽の記載がされた請求書の交付を受けていたこと、原告が備え付けている右帳簿並びにサンエイ薬品作成の右売掛表等の虚偽の記載は、原告の命により確定申告書の作成提出等の事務を担当した原告の従業員又は原告の顧問税理士の指示に基づき、サンエイ薬品と通謀のうえでされたものであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、原告は、備え付けている帳簿に虚偽の記載をし、サンエイ薬品から事実に基づかない請求書の交付を受け、本件消耗品を昭和五六年中に取得したかのように仮装したものであって、このことは国税通則法六八条一項に規定する事実の仮装をしたことに該当するということができる。

この点について、原告は、知合いの医師等からの助言により、消耗品の買入れの約定をしたことによって直ちにその取得費用をその年分の必要経費に算入することができるものと誤解した旨を主張するが、所得税法三七条一項、二条一項一六号、同法施行令三条六号によれば、その年分の事業所得の金額の計算において必要経費に算入できる消耗品費は、当該年中に費消した消耗品に係る金額であることが明らかであるから、原告において右誤解があったとしても、これをもって、原告が国税通則法六八条一項に規定する重加算税の賦課決定を免れる事由とすることはできない。

(三)  給料賃金の否認額の適否(抗弁2(一)(6)、原告の反論2)

原告が、確定申告による事業所得の金額の計算において、田中健に対して支払ったとされる三一五一万九四四四円及び田中真理子に対して支払ったとされる一九〇五万円をいずれも給料賃金として必要経費に算入していることは当事者間に争いがない。

しかしながら前記二1(三)認定の事実によれば、原告が昭和五六年中に田中健に対して支払ったとされる三一五一万九四四四円の給料賃金のうち、原告の業務の遂行上必要な給料賃金の額は、別表4記載の昭和五六年における平均額である七九八万五二六七円を超えるものではないとみるのが相当であるから、これを超える二三五三万四一七七円は必要経費から除外すべきものである。同様に、原告が昭和五六年中に田中真理子に対して支払ったとされる一九〇五万円の給料賃金のうち、原告の業務の遂行上必要な給料賃金の額は、別表5記載の昭和五六年における平均額である七八二万二三七七円を基準としてこれを三六五日で除したうえ原告がその開設する病院に備え付けている出勤簿に田中真理子が出勤したものとして押印された日数である一〇四日を乗じて計算される二二二万八八四二円(円未満端数切り上げ)を超えるものではないとみるのが相当であるから、これを超える一六八二万一一五八円は必要経費から除外すべきものである。

そうすると、右給料賃金のうち必要経費から除外すべき金額は合計四〇三五万五三三五円となる。

(四)  青色事業専従者給与の否認額の適否(抗弁2(一)(7)、原告の反論3)

原告が、確定申告による事業所得の金額の計算において、田中静可に対して支払ったとされる一七四〇万円を青色事業専従者給与として必要経費に算入していることは当事者に争いがない。

しかしながら、前記二1(四)で認定、説示のとおり、原告が昭和五六年中に田中静可に対して支払ったとされる一七四〇万円の青色事業専従者給与のうち、その労務の対価として相当であると認められる金額は、別表6記載の昭和五六年における平均額である四九一万一〇四六円を超えるものではないとみるのが相当であるから、これを超える一二四八万八九五四円は必要経費から除外すべきものである。

(五)  院長住宅に係る租税公課等の否認額の適否(抗弁2(一)(8)、原告の反論5)

原告が確定申告による事業所得の金額の計算において、租税公課、減価償却費及び支払利息として必要経費に算入していたもののうち、不動産取得税として支払った五三万三〇一〇円及び減価償却費として計上した一〇八万九三八三円はいずれも院長住宅に係るものであり、株式会社徳島相互銀行三野支店に利息として支払った二八二万八〇八二円は院長住宅の新築のための借入金に係るものであることは当事者間に争いがない。

しかしながら、証人新田旭の証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、田中勉(昭和二二年三月二〇日生まれ)は原告の長男であり、妻と三子がいるが、昭和五六年一月、三野町・田中病院に勤務し始めたのに伴い、東京都新宿区から転入して原告と一時同居し、同年五月、原告が院長住宅(敷地約五〇〇平方メートル、建築床面積二二九・八八平方メートル、建築価額四〇一八万八〇〇〇円)を新築したので、家族とともにこれに入居したこと、原告と田中勉との間では院長住宅についての賃貸借契約は締結されておらず、田中勉は少なくとも入居当初から昭和五七年中までは無償で院長住宅に居住し続けていたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、院長住宅は、原告が親子関係に起因して長男である田中勉の住居の安定を図る目的で新築したものであり、少なくとも同人の入居当初から昭和五七年中までは右目的の用に供されていたものということができる。原告は、院長住宅が原告の経営する三野町・田中病院の院長として勤務する者のために提供される住宅であって、田中勉の個人住宅ではない旨主張するが、右事実に照らすと、到底これを採用することはできない。

そうすると、院長住宅は事業用の資産ということはできないから、院長住宅について生じた経費とされる前記租税公課等合計四四五万〇四七五円は必要経費から除外すべきものである。

(六)  以上によれば、原告の昭和五六年分の事業所得の金額は、確定申告による事業所得の金額一四一〇万六〇九一円に、抗弁2(一)(1)の金額二七九六万五六四〇円、同(2)の金額三〇万円、同(3)の金額一八〇万円、前記(三)認定の金額四〇三五万五三三五円、同(四)認定の金額一二四八万八九五四円、同(五)認定の金額四四五万〇四七五円を加算し、抗弁2(一)(4)の金額一六五万四四三〇円、同(5)の金額四万〇三七三円を減算した九九七七万一六九二円となる。

2  総所得金額

原告の昭和五六年分の総所得金額が事業所得の金額に雑所得の金額となる所得税の還付金に係る還付加算金三九万七三〇〇円を加算した金額であることは当事者間に争いがないところ、右事業所得の金額が九九七七万一六九二円となることは前記1認定のとおりであるから、右総所得金額は一億〇〇一六万八九九二円となる。

3  所得税額(申告納税額)、過少申告加算税額及び重加算税額

原告の昭和五六年分の所得税額(申告納税額)、過少申告加算税額及び重加算税額については、抗弁2(一)、(二)の事実を前提としたときの計数及び計算関係は当事者間に争いがないところ、過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額に関し、その計算の基礎となる事実が原告の確定申告に係る所得税額(申告納税額)の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条二項に規定する正当な理由があると認めるに足りる証拠はないうえ、抗弁2(一)、(二)の事実については前記1、2認定のとおりこれを認めることができるから、右所得税額(申告納税額)は四五四六万九六〇〇円、右過少申告加算税額は一七三万七九〇〇円及び右重加算税額は六一四万三四〇〇円となる。

四  原告の昭和五七年分の事業所得の金額、総所得金額、所得税額及び過少申告加算税額

1  事業所得の金額

(一)  原告の昭和五七年分の事業所得の金額が確定申告による事業所得の金額一七八三万五五二二円に抗弁3(一)(1)ないし(5)の金額を加算し、(6)及び(7)の金額を減算すべきであること、右(1)の金額が五五五万三七三八円、(2)の金額が三二万円、(3)の金額が八四万円、(4)の金額が七一二万円、(5)の金額が二一一二万八〇〇〇円、(6)の金額が二三八五万五六〇〇円、(7)の金額が一三二万三三四三円であることは当事者間に争いがない。

(二)  給料賃金の否認額の適否(抗弁3(一)(8)、原告の反論2)

原告が、確定申告による事業所得の金額の計算において、田中健に対して支払ったとされる二八九五万四六八七円及び田中真理子に対して支払ったとされる一九〇八万五二四二円をいずれも給料賃金として必要経費に算入していることは当事者間に争いがない。

しかしながら、前記二1(三)認定の事実によれば、原告が昭和五七年中に田中健に対して支払ったとされる二八九五万四六八七円の給料賃金のうち、原告の業務の遂行上必要な給料賃金の額は、別表4記載の昭和五七年における平均額である八四九万一一八七円を超えるものではないとみるのが相当であるから、これを超える二〇四六万三五〇〇円は必要経費から除外すべきものである。同様に、原告が昭和五七年中に田中真理子に対して支払ったとされる一九〇八万五二四二円の給料賃金のうち、原告の業務の遂行上必要な給料賃金の額は、別表5記載の昭和五七年における平均額である八三三万六七八二円を基準として、同年一月から同年三月までは右期間が一年の四分の一であるとしてこれを乗じたうえ、その期間の日数である九〇日で除して原告がその開設する病院に備え付けている出勤簿に田中真理子が出勤したものとして押印された日数である二八日を乗じて計算される六四万八四一七円(円未満端数切り上げ)と同年四月から同年一二月までは右期間が一年の四分の三であるとしてこれを乗じた六二五万二五八七円(円未満端数切り上げ)とを合算した六九〇万一〇〇四円を超えるものではないとみるのが相当であるから、これを超える一二一八万四二三八円は必要経費から除外すべきものである。

そうすると、右給料賃金のうち必要経費から除外すべき金額は合計三二六四万七七三八円となる。

(三)  青色事業専従者給与の否認額の適否(抗弁3(一)(9)、原告の反論3)

原告が、確定申告による事業所得の金額の計算において、田中静可に対して支払ったとされる一六四〇万円を青色事業専従者給与として必要経費に算入していることは当事者間に争いがない。

しかしながら、前記二1(四)で認定、説示のとおり、原告が昭和五七年中に田中静可に対して支払ったとされる一六四〇万円の青色事業専従者給与のうち、その労務の対価として相当であると認められる金額は、別表6記載の昭和五七年における平均額である五四九万四四二五円を超えるものではないとみるのが相当であるから、これを超える一〇九〇万五五七五円は必要経費から除外すべきものである。

(四)  院長住宅に係る減価償却費の否認額の適否(抗弁3(一)(10)、原告の反論5)

原告が確定申告による事業所得の金額の計算において、減価償却費及び支払利息として必要経費に算入していたもののうち、減価償却費として計上した一六三万四〇七五円は院長住宅に係るものであり、株式会社徳島相互銀行三野支店に利息として支払った二八六万九二八九円は院長住宅の新築のための借入金に係るものであることは当事者間に争いがない。

しかしながら、前記三1(五)で説示したとおり、院長住宅は事業用の資産ということはできないから、院長住宅について生じた経費とされる右減価償却費等合計四五〇万三三六四円は必要経費から除外すべきものである。

(五)  本件保険料の否認額の適否(抗弁3(一)(11)、原告の反論6)

原告が、確定申告による事業所得の金額の計算において、別紙7記載のとおりの本件保険料六〇八万二八九六円を必要経費として算入していること、本件保険契約の内容は別紙7記載のとおりであって、原告と住友生命ほか三社との間で昭和五六年七月又は八月に締結されたものであり、住友生命との契約に係る満期保険金については原告が受取人、住友生命ほか三社との契約に係る死亡保険金については原告の妻田中静可が受取人であることはいずれも当事者間に争いがない。

そして、原本の存在及びその成立に争いのない乙第二八号証の一ないし三、いずれも成立に争いのない乙第二九号証の一ないし三、第三一号証、証人新田旭の証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、大成建設株式会社との間で、昭和五五年一二月三日、三加茂町・田中病院の新築工事を工事着手時期同五六年三月一日、請負代金六億七五〇〇万円として、同五六年四月一〇日、同病院の二階増築工事を工事着手時期同月一一日、請負代金五〇〇〇万円として、同五七年二月一二日、同病院の設計変更工事を工事着手時期同五六年一〇月一日、請負代金三〇〇〇万円として、以上、請負代金合計七億五五〇〇万円の建築工事請負契約を締結したこと、同病院の敷地は四国旅客鉄道株式会社徳島本線阿波加茂駅から約二〇〇メートル北方で国道一九二号にほぼ近接している場所にあり、その面積は約二六七八平方メートルであること、原告は、右請負代金支払に充てるための資金を株式会社徳島相互銀行から借り入れることとし、同銀行のために右敷地につき昭和五六年四月六日に極度額を七億二五〇〇万円とする根抵当権を設定したうえ、同五七年六月九日には右極度額を八億四〇〇〇万円に増額変更するとともに、建築完成した同病院の建物につき極度額を右増額後の金額と同額とする根抵当権を設定したこと、本件保険契約は、右資金借入れの際、銀行からの求めによって締結したものであること、ただし、本件保険契約に係る保険金請求権につき株式会社徳島相互銀行は質権の設定を受けてはいないことが認められる。

右事実によれば、本件保険契約は、原告が三加茂町・田中病院の建築資金に充てるための金員を株式会社徳島相互銀行から借り入れるのを契機として締結されたものであり、満期の到来若しくは保険事故の発生により保険金が支払われた場合、その金員は受取人(原告若しくはその妻静可)の一般財産となって受取人に対する債権者の債権の引当てとなりうることは事実である。しかしながら、生命保険は、元来、保険契約者が満期の到来若しくは保険事故発生後の自己若しくは近親者の生活のことを慮って加入するものであり、その営む事業とは係りを有しないものである。したがって、保険契約者が保険者に対して支払う保険料もその事業収入とは本来的に直接の関連性はないのであり、このことは保険に加入する契機が右認定のようなものであっても変わるところではない。

そうすると、本件保険料は原告の業務の遂行上必要な費用ということができないから、その金額六〇八万二八九六円は必要経費から除外すべきものである。

(六)  以上によれば、原告の昭和五七年分の事業所得の金額は、確定申告による事業所得の金額一七八三万五五二二円に、抗弁3(一)(1)の金額五五五万三七三八円、同(2)の金額三二万円、同(3)の金額八四万円、同(4)の金額七一二万円、同(5)の金額二一一二万八〇〇〇円及び前記(二)認定の金額三二六四万七七三八円、同(三)認定の金額一〇九〇万五五七五円、同(四)認定の金額四五〇万三三六四円、同(五)認定の金額六〇八万二八九六円を加算し、抗弁3(一)(6)の金額二三八五万五六〇〇円、同(7)の金額一三二万三三四三円を減算した八一七五万七八九〇円となる。

2  総所得金額

原告の昭和五七年分の総所得金額が事業所得の金額に雑所得の金額となる所得税の還付金に係る還付加算金一四万八〇〇〇円を加算した金額であることは当事者間に争いがないところ、右事業所得の金額が八一七五万七八九〇円となることは前記1認定のとおりであるから、右総所得金額は八一九〇万五八九〇円となる。

3  所得税額(申告納税額)及び過少申告加算税額

原告の昭和五七年分の所得税額(申告納税額)及び過少申告加算税額については、抗弁3(一)、(二)の事実を前提としたときの計数及び計算関係は当事者間に争いがないところ、過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額に関し、その計算の基礎となる事実が原告の確定申告に係る所得税額(申告納税額)の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条二項に規定する正当な理由があると認めるに足りる証拠はないうえ、抗弁3(一)、(二)の事実は前記1、2認定のとおりこれを認めることができるから、右所得税額(申告納税額)は二二八八万四三〇〇円及び右過少申告加算税額は二〇四万二七〇〇円となる。

五  以上によれば、原告の本件係争各年分の総所得金額、所得税額(申告納税額)及び過少申告加算税額並びに昭和五五年分及び同五六年分の重加算税額は前認定のとおりであるところ、本件各処分に係る総所得金額、所得税額(申告納税額)、過少申告加算税額及び重加算税額はそれぞれ右の範囲内であるから、本件各処分はいずれも適法であるといえる。

六  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 橋本昇二 裁判官 長谷川恭弘)

別表1

課税経緯表(昭和五五年分)

〈省略〉

別表2

課税経緯表(昭和五六年分)

〈省略〉

(注) 申告納税額の△を付した金額は還付金の額に相当する税額である。

別表3

課税経緯表(昭和五七年分)

〈省略〉

(注) 申告納税額の△を付した金額は還付金の額に相当する税額である。

別表4 県立病院等に勤務する医師の給与の額の平均額の計算表

(昭和19年4月から昭和29年4月までに出生した者に係るもの)

〈省略〉

別表5 県立病院等に勤務する医師の給与の額の平均額の計算表

(昭和21年9月から昭和31年9月までに出生した者に係るもの)

〈省略〉

別表6 医師の妻である青色事業専従者の給与の額の平均額の計算表

〈省略〉

〈省略〉

別表7 生命保険契約の内訳明細表

〈省略〉

別表8 購入した医薬用機器の明細表

(サンエイ薬品株式会社からの購入分)

〈省略〉

別表9 購入した医薬用機器の明細表

(弘和薬品株式会社からの購入分)

〈省略〉

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